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UGREEN NASyncに見るマーケティングの妙

逸般の誤家庭であれば特に珍しくもないNASですが、世間を歩いていれば、NASオーナーは決して多数派というわけではないと感じます。法人では、スタンドアロンから次のアップグレードに位置する機器であり、中規模の以上の事業者ではほぼ必須のインフラとなっています。とは言え、家庭に1台は程遠いでしょう。

ちなみに私は、法人向けNASの導入保守経験が約10年、自宅のNASの使用経験が7年ほどであり、NASについてはまあまあ詳しいほうだと思いますw
そんな私が、今回のNASync登場の騒ぎっぷりには少々懐疑的なので、記事にすることにしました。UGREENの製品、大好きでたくさん持っているんですが、今回はちょっと気になったので。

目次

データの増加対応は(ほぼ)全人類の課題

ここまで世の中にスマートフォンやらのガジェットが普及しても、それぞれのユーザーのITリテラシーに差があっても、すべてのユーザーに共通する課題としてデータ管理が挙げられます。毎日写真や動画を撮り、文書を作成し、使っているだけで増えていきます。そして、データ領域が有限であることは多くの人が認識しています。端末の容量警告によって認識したり、スマートフォンを買い替える際にストレージサイズによって値段が分かれていたりするからなのでしょう。

そのストレージの有限さを認識しつつ、対処法が様々という課題という点が面白いです。人によっては目を背けたり、何とか容量を節約しながら使ったり、よくわからないけどスマートフォンに出てくる画面の案内通りに進めてクラウドストレージを契約していたり、最初から大きめのストレージを選択していて、そこに「そうだ、NASを買おう!」というルーチンは多くの場合存在していないでしょう。

UGREENのNasyncとは

今回、香港のUGREENから、NASyncというブランドでNASがリリースされることになりました。なんでも、米Kickstarterで10億円以上資金を募ったものなんだとか。金額を見るだけで、「これはもうすごいものなんだ。みんなが期待しているものなんだ。待ち望んでいたものなんだ」という印象を受けてしまいます。

しかしよく考えてみれば、NASはすでに、日本国内においては、Synology、バッファロー、QNAP、ASUSTORがほぼシェアを握っている状態です。コスパ競争においても、すでに成熟期に入っているため、センセーショナルな製品が出てくることもしばらく見ていないですね。

では、このNASync、きっと何かが優れているに違いありません。見ていきましょう。

画像:https://nas.ugreen.jp/

UGREEN NASyncの特徴

まず初めに、NASyncシリーズは3モデルになっています。

  • DXP2800
  • DXP4800 Plus
  • DXP6800 Pro

この三つは後ろにPlusだの、Proだのついていますが、無印はありませんので、単純にモデル番号だけ見ていけばいいでしょう。そしてモデル番号が大きくなればなるほど、ハイスペックになっています。では、スペックを見ていきます。

DXP2800DXP4800 PlusDXP6800 Pro
HDD最大搭載数246
M.2最大搭載数222
CPUN100Pentium Gold8505Core i5-1235U
RAM8GB(Upto16GB)8GB(Upto64GB)8GB(Upto64GB)
システム用ストレージ32GB eMMC128GB SSD128GB SSD
LANポート2.5Gbps2.5Gbps+10Gbps10Gbps+10Gbps
USBポートType-C x1
USB-A 3系 x2
USBーA 2系 x2
Type-C x1
USB-A 3系 x2
USBーA 2系 x2
Type-C x2(Thunderbolt)
USB-A 3系 x2
USBーA 2系 x2
PCIe X4なしなしあり
SDカードスロットなし3.04.0
HDMI出力4K4K8K

書いていてなるほどなと思いました。UGREENのNASの独自性がスペックにも表れています。アプリも一つの強みなのでしょうが、これはすでに他社も多数展開しているので、NASyncに限った話ではありません。
さて、特徴を一つずつ見ていきます。

CPUが競合他社より強力である

最低でもIntelのN100というワットパフォーマンス、およびコスパに優れるプロセッサが搭載されています。多くの誤家庭では、このN100で十分といえるでしょう。ただ、これ2ベイモデルなんですよね。CPUパワーを必要としつつも、ストレージ単価を落とすためのRAID5系が使えないのに、N100ですか。
いささかオーバースペックかなと思います。まあ、あれやこれややりたいとなってくれば、このパワーはきっと有効利用されるとは思いますが。データをとにかくたくさん積みたい!というだけの人には、このDXP2800は合わないでしょう。NASを使って、いろいろアプリを実行したい!でも、パソコンじゃいやだ。というひねくれた人にしか響かないような…誰向けなんだろう。

上位のCPUが積まれたものに関しては、どちらも15W前後消費するもののようで、N100が10W以下で考えると、上位2機種は電気代が比較的多くなる傾向にあるでしょう。

システム領域が搭載HDDとは別の領域にある

システム用のストレージが搭載ストレージとは別になっている点は便利だろうなと思いました。公式サイトでは、他社のNASより初期設定が簡単(と見受けられる内容で)書かれていますが、この領域があるおかげで、他社のNASよりは幾分か簡単になると思います。この領域は出荷状態でOSをインストールしておけるので、届いてすぐブートできるというわけです。ネットワークにつないで、OSイメージをダウンロードして、搭載ディスクの先頭にそれを書き込んでという流れが存在しません。また、純粋に搭載ディスクをデータ領域として占有できるので、スペース効率は高まるでしょうね。

HDMIポートがある

市場の多くのNASが映像出力を持ちません。すべてネットワーク上の別のPCでブラウザを使って遠隔操作します。世の中を渡り歩いていると、この、「遠隔でブラウザから何かする」というのがあまりに直感とかけ離れているのか、理解されないことが多いです。なので映像出力を持たせたのは大きいでしょう。また、テレビの近くにおいておけば、最小限のシステムでNASの中にある映像データを直接再生したりできますね。ストリーミングではないので、DLNAなどを利用したりすることなく、レコーダーのような感覚で使えるという点では家族の理解を得るのに説明が楽になるでしょう。ただし、まだシステム側の対応がされていないようで、想像するようなHDMI活用法にはなっていないようです。スマホアプリで遠隔操作して、その映像がHDMIで出力されるような者みたいです。微妙すぎる。

画像の分類がローカル処理のAIによって判別される

これはスペック表にはないですが、出てきている情報からするとかなり強力な機能の一つだと思います。他社も同等の写真バックアップ機能は搭載されていますが、画像の分類をAIがやるという点についてはまだまだ行き届いていない部分が多いです。毎日撮影される写真の分類は、できれば自動化しておきたいし、Googleフォトのように後からキーワードで探せると非常に助かります。

この機能だけは他社に勝っているだろうと思える部分です。しかもローカルで処理されるという秘匿性も他社にはない利点です。

いいところはいいところ、NAS全般に言える弱点に関しては他社NASと同等レベル

過去の記事で、私はRAIDの恐さについて取り上げました。確かにパリティを利用するタイプのRAIDに関しての話が強いですが、コストが限られる家庭利用においては積極的に選ばれるRAIDタイプだと思っています。

家庭用のNASでRAIDのメリットデメリットをよく考える必要がある

NASyncではRAIDの対応レベルは、JBOD/ベーシック/0/1/5/6/10となっていて、特段RAIDに関してはSynology Hyblid RAIDやWindowsの記憶域スペースのような特色あるRAIDはありません。なので、RAID過信の恐さをそのまま引き継いでいると考えていいでしょう。

価格は普通。ただし早期出資者になればお買い得

通常価格で見ると、DXP2800は55,880円、DXP4800 Plusは99,880円、DXP6800 Proは169,880円。この値段出てみていくと、特にDXP2800が誰向けに作られているのかわかりにくい中でこの値段は少々強気です。確かにインターフェースと、プロセッサ周りは競合製品よりいいものが搭載されているとはいえ、ゴリゴリにアプリを動かす、複雑なRAIDを組む、仮想マシンを複数起動するといった、NASユーザーとしてはかなりのパワーユーザーにしか響きません。
マーケティング的には、SNS・インフルエンサーを主体とした「NASって何?そんな便利なものあるん?」ぐらいの人に売り込んでいるように見えるのになぁ。

早期アクセスでは最大40%オフとなり、製品入手に必要な最低出資額は順に3万3,528円、5万9,928円、10万1,928円となります。この価格であれば、かなりのお買い得だとは思いますが。

NASの認知度の低さを逆手に取った疑似ブルーオーシャン市場

さて、その売り込み方を見ていると、今までシェアを握ってきたSynologyやQNAPと比べると、「NASそのものに対する認知度を上げて潜在需要を活性化させる」という手法をとることで、今までNASを知らなかったけど、そういうものがあるなら欲しかったという層を活性化させる意図があるように思えます。

確かに、NASはかなりギークなユーザーだけが知っていて、それを構築できるユーザーにのみ売れていたのでしょう。とはいえ、すでに各社も構築が簡単になるようなノウハウは十分に蓄積されています。アプリもかなりの数がリリースされていて、今やサーバーを超える利便性を持つ製品も珍しくありません。ですが、その認知活動が十分ではなかった疑似ブルーオーシャン市場ともいえるところに、UGREENが参入してきたわけです。これは素直に「いいところに目を付けたなぁ」とは思います。ですが、インフルエンサーがやりがちな「バカ売れ!」とか、「クラファンで10億!」とか、そういうものに目を引かれがちで、本来の製品としての価値が若干ぼやけて見えていることも確かです。

せっかくNASを認知したのであれば、今一度、本当に自分にとって最適なものかどうか、冷静に判断して、比較検討してみるいい機会かとも思います。

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この記事を書いた人

大手SIer出身。インフラエンジニア。ユーザー系企業で社内SEを2社ほど転々とし、今は個人事業主。
ハードウェアが大好きで、気になり始めると試さないと気が済まない性格のせいで一向にデバイスが減らない。

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